洋楽クラシックロック雑記帳

懐古趣味の70年代、大体リアルタイムの80年代を中心に思いつくまま。ほぼ備忘録

私と10cc (5) 長い空白とyoutube -Part1-

あれから──

私の中での10cc はカセットテープに録った13曲のみが全てとなっていた。
それだけで充分、満足していたから。
まあ......私からすればあのバンカラな「バンド名由来」のショックは大きかった。
アルバムなどを追求していく気も失せていて、10cc はもういいかな、とそんな気持ちにさえなっていたのだ。

お気に入りだったはずのエリック・スチュワートのことも、私が雑誌などで見たほんの少しの写真ではすごくクールな面だけが出ていて映像にあった色気は感じられず......あれ?みたいな。

そして映像の方も「I’m Not In Love 」(MUSIK LADEN出演時)以外のミュージック・ビデオを拝む日はついに訪れなかった。
そうこうするうちに、エリックへの関心も消えていったのである。

という状態だったので、10cc がエリックとグレアム・グールドマンで再結成し、92年と95年にアルバムが出て、93年と95年には来日も果たしているということにも気付かなかった。
そんなかんじではあったものの、とにもかくにもテープはずっと好んで聴いてきたし、録画した唯一のビデオもふと思い出しては視聴していた。

ただ、2000年代に入ってカセットテープもVHSビデオテープも処分することになり、それぞれMD、DVDへと移行したはいいが、その後MDウォークマンが壊れてMDは聴けなくなり、DVDは棚に並べてそれっきり(やっつけ仕事でリスト作りを端折ったため、どこに誰の何が入っているのかわからなくなってしまったということは大いなる原因......)。

そうして聴けなくなってしまった10ccの曲。
喪失感はあったものの、改めてMDプレイヤーやCDを買うなどという気も起きず。

これまでの長い年月の間に聴きすぎてしばらく距離を置く、そんな周期がやってきていた。
そして10ccとの距離はどんどん遠くなり、そのことを自覚しつつも感情には何も起こらなくなっていた。
TVなどで「I’m Not In Love 」が流れても、「あー、昔よく聴いたなあ」と思うだけ。
もはや私にとって完全に過去の曲となってしまった。
10ccに限らず、よくあることと言ってしまえばそうなのだけど。

以降、ラジオとは縁遠くなり、CDもほとんど聴かなくなっていた。
音楽を聴く手段は専らYouTube
とはいえそれもたまに、程度。
自分が音楽好きだったことすら時々フッと忘れていたりして(違う意味でやばい)。

と、こんな調子の日々を送っていたある日。
ものすごく久しぶりに10ccの「Taxi Taxi」が聴きたくなった。
手持ちの音源はもうない。
YouTube にあったりしないかな......

あ、あった!
なんかすごく嬉しい。
曲が始まると一気に時代が引き戻される。
懐かしいしやっぱりいい曲!
時を経ていることもあり、またちょっと違うふうに聴こえてくるのも新鮮。

この曲を好きな気持ちも高まって気が済むまで何回も聴いたりするのが数日続く。
で、一旦満足するとまた聴かなくなる。
そしてまた思い出しては聴きたくなって......そんなことをここ数年繰り返していた。
しかし、聴きたくなるのは不思議と「Taxi Taxi」だけで、我ながら極端というかなんというか。

まあ、そんなかんじで聴いてきて、いつしかこの曲の持つ清涼感を求めて夏に好んで聴くようになっていた(ちなみに最初は春っぽいイメージで春先に好んで聴いていた)。
とにかく聴くとスーっと涼しい。
体中の悪いものを洗い流してくれる感覚まであって、助かる(?)。

ということで直近の夏もこの「Taxi Taxi」(音楽以外では怪談も、って関係ないか)で涼を取っていたわけだが。

ある夜。
いつもなら曲を聴き終わればそれで終了、就寝という流れのところ、その日はなぜか「この曲が入ってるアルバムってどんなの?」という好奇心が初めて湧いた。
そこで、関連動画から無造作に選んだ「The Secret Life Of Henry」(再発CDのボーナストラックでオリジナルの方には収録されていない)を聴き、「なんか10ccってかんじだな〜」などとわかった風なことを思いつつ。

そうやっていくつか見ていく中で、なにげなくコメント欄に目をやった。
......英語ばっかり。
簡単でシンプルなものしか拾えないが、それでもなんとはなしに眺めていて、あるコメントに目が止まる。
それは「こんなにかわいいボーカリスト今まで見たことがない」といった意味合いのものだった。

「かわいい......?」

私は訝しんだ。
そのコメントはエリックに対してのものだったのだが、いやいや何かの間違いでは?
百歩譲ってかっこいい、とかでしょ?
私の中のエリックのイメージというのは遠い昔、高校生だった頃の「静かな色気を纏ったクールな人」というので止まっていて、しかもカチコチに凝り固まっていたからだ。
しかし、さらに他のコメントも見ていくと、どうやらアイドル的な人気もあった模様。

(コメントの大半はファンの人たちだから基本賞賛だろうし。だからかな?でも......)

私は妙に気になってきた。
そして一旦気になり出すと止められない。

もうこうなれば自分が納得する「かわいいエリック」を探すしかないな!(寝ればいいのに)。



──長すぎなのでPart2に続く──

私と10cc (4) 「10cc Greatest Hits 1972ー1978」

私と10cc 。これまで(1)〜(3)とやってきたわけだが、ここで簡単に時系列を整理したいと思う(TVで「I’m Not In Love」を見た時期は、書いてきた順番とは違うので)。


*体験順

① 「I’m Not In Love」(ラジオ・1回目)86年〜87年頃 中3か高1

② 「I’m Not In Love」(ラジオ・2回目)87年〜88年頃 高1か高2

③ 「Taxi Taxi」(ラジオ)88年 高2

④ 「I’m Not In Love 」(TV)88年〜89年頃 高2

⑤ 「Art For Arts Sake」(ラジオ)89年頃 高2か高3


以上、ゆったりとした流れを経ていよいよ私は10cc のアルバムを聴いてみようかなという気になった。
といっても買うのではなく、借りるのである。
アルバムに関する予備知識もなく、ただ「I’m Not In Love 」が入っているのは絶対借りようという目星があるくらい。
そんなぼんやりとした状態でも、行けばなにかしらいろいろあってなんとかなるだろう、と軽い気持ちでレンタルレコード・CD店へ出向いた。

ところが、CDとLP両方をチェックするも品揃えが寂しい。
ちなみに89年当時、CDは普通に普及していたように思うが、過去に発表された作品のCD化はされていたりいなかったりでまだ充分ではなかった。
だから10cc のアルバムはこの地点でCD化があまり進んでいなかったのかもしれない。
かといって、LPも少ししか置いていなかったのだが。
70年代のバンドだからとたくさんアルバムが出ているような気がしていたので、正直びっくり(勝手なヤツだなー)。

とにもかくにも気を取り直し、チェック再開。

まず、一番印象に残っているのは「びっくり電話」と邦題の付いたアルバム(原題は「How Dare You」 )。
私の目は点になり、頭の中は混乱した。
どうにもふざけたタイトルのように感じてしまい、私の中のイメージと合わない。
合わなさすぎて焦る。

10cc って一体どんなバンドなんだ!?(邦題って罪作り)。

謎を深めつつ物色を続ける。
「The Original Soundtrack」というアルバムはタイトルを見て、何の映画のサントラ?と一瞬考えたものの、なんかよくわからないし関係なさげと判断してスルー。
しかし、帯や収録曲さえもチェックしなかったんだな、自分。
お目当ての「I’m Not In Love 」はこのアルバムに入っているのに。
あとは「10cc Greatest Hits 1972ー1978」というベストアルバムと、もう1、2枚ぐらいあったと思うのだが思い出せない。

分類すると、

*LP

・「The Original Soundtrack 」
・「びっくり電話」
・ 何だったか忘れたアルバム

*CD

・「10cc Greatest Hits 1972ー1978」
・ 何だったか忘れたアルバム


......と、こんなかんじだったと思う。

さて、このラインナップの中から何を借りればいいんだ?
私は迷いに迷った。
だいたい、私のような情報量の少ない者は手っ取り早くベストアルバムを選んでおけばよい。
だがその頃、その手段を選択するのは邪道で、スタジオアルバムを1枚1枚ていねいに聴いていくことこそがストロングスタイルと信じて疑わなかったため、答えはNoである。
といって他を選ぶ勇気もない。
額に脂汗まで滲んできた。

どうしよう。選べない──あ、もしかして今、誰かが何枚も借りていて、それで置いてあるのが少ないだけなのかもしれない──

とうとうその日は何も借りず帰宅。
後日、改めて出直すも状況は変わらず......残念ながら元々の品揃えは少なかったようだ。

私は不要な回り道をして結局、己の信条をぐいっと曲げてベスト盤のCDを借りた。
これには「I’m Not In Love 」も「芸術こそ我が命」も入っていたし(最初から借りとけよ〜、と今では思う)。


聴きながら、1曲ずつの短い簡単な感想を書いた。
以下、当時の文より。


1989年6月8日(木)
10cc (アルバム「10cc グレイテストヒッツ 1972ー1978」のこと)

曲別の感想

1. RUBBER BULLETS

 なんか10cc のイメージとちゃうなあ 1曲目は ふーん(悪い意味のふーんではないが)

2. DONNA

 こわい!誰が歌ってるの、最初のとこ......あの高い声の...... まったく、バカにしてますね〜 ハッハッハッ おもしろくってよろしい!

3. SILLY LOVE

 うそ......ロックじゃないか...... う〜ん、最初らへんの時やからかな 美しくはないが悪くもない

4. THE DEAN AND I

 なかなかほのぼのしてるやんか? 軽いかんじがよいなあ でもどことなくコミカル

5. LIFE IS A MINESTRONE

 ふざけてるみたいな曲 妙なかんじで 明るいのがよい 

6. THE WALL STREET SHUFFLE

 お? これはちょっとだけ美しいかな ちがうイメージだが かなりくるものがある いい曲 うんうん

7. ART FOR ARTS SAKE

 これは前にラジオから録って知ってるし好きな曲*1初めはえっ!?と思ったけど でもわりと美しい カチッとしてたりしてなかったりで 心地よい

8. I’M MANDY, FLY ME

 こ、これなのだ......私のイメージにある10cc とは この美しさなのだ 聴いてて思わずうっとりとでもしてしまいそうな そんなサウンドなのだ なんとなく ホッ

9. GOOD MORNING JUDGE

 わあ、なんか70年代よ!?(あたりまえか、これは1976年にレコーディングされている) いい曲だと思う でもやっぱりこれ...... ほんまに70年代!

10. THE THINGS WE DO FOR LOVE

 出だしからもう、良いと思った いいですね〜 軽いようでも哀愁が漂ってるところが フフフ......

11. DREADLOCK HOLIDAY

 エリック・スチュワート*2の声がとてもはっきりと聴こえてくるのがよい(全体の声も) なんとなくユニークなかんじがする曲 あの......ちょっとスパニッシュ、*3なの?

12. I’M NOT IN LOVE

 この曲こそ、私が10cc を知った初めての曲 これを聴くといやでもウットリとしてしまう......のが当然でしょう!? 最初っからこの曲には感動してしまったのですから だからこういうのが10cc なのか、と コーラスとかいいかんじで、ヴォーカルも優しい声で歌ってるし、とにかく音がフワッ......としてて大変気持ちよかったんですね で、初めて聴く前に、ラジオのCMかなんかで流れてたのを聴いたことあったから、「あれ、この曲聴いたことある」ってかんじだったなあ グループ名とかは知らんかって、実質的に初めて聴いたときに、知ったんやけど とりあえず1番好きな曲


──今、こうして読み返してみると執拗に10cc に美しさを求めていて我ながら呆れる。
とはいえ、未だにそれは私の根底にあるのだが。

そして、このベスト盤を聴いてみただけでも一筋縄にはいかない個々の楽曲に簡単には屈したくない気持ち、というのもあり。
自分の中で一生懸命曲を受け入れ、納得しようとしていたことがこの当時の感想に「この曲は好きじゃない」とか書いていないことに表れている(負け惜しみ?)。

では、本当のところはどうだったのか?

白状すると、「Rubber Bullets」はわちゃわちゃとした明るい曲調に「え!?借りるの間違えた?」と不安になり、「Donna」で完全にフリーズ。
何?オールディーズ?というか、誰?

「やっぱりこれ10ccじゃない!」

途中で再生を止め、CDの盤面を確認してもなかなか信じられなかったほど。
そんな状態で聴く謎のファルセットボイスには戦慄さえ覚え、より一層不安な気持ちに。
「Silly Love」はリフやソロなどまさにハードロックで、ギターがかっこいいけどイメージ的にはますます「??」、「The Dean And I」や「Life Is A Minestrone」も含め、怒涛の振り幅で実のところついて行けてもいなかった。

そして、いろんな声が聴こえすぎて一体誰がどれなのか、何人が歌っているのか、もう「?」だらけだったのである。

そうそう、このアルバムの解説のところでやっとメンバーの名前を知った。
でもフルネームを覚えたのは一番関心のあったボーカルの人だけ。

「エリック・スチュワート。なんかものすごく普通の名前だな〜」

......失礼な感想(ごめんねエリック)。

で、このときだったか別の何かだったか、10cc というバンド名の由来(男性4人の1回分の精液の合計=10cc )を読んで思いっきり引いてしまった、ということもよく覚えている。

私は10cc というバンドに知的なイメージを持っていてこのバンド名も好きだったので、そんな俗っぽい、いかにもな由来だったなんて、と幻滅した。
そして同時に、10cc に関する詳細なあれこれについての興味もサーッと引いてしまった。
だからかどうか、解説の中にあったであろうバイオグラフィー的なことを読んだ記憶がない。


と、なんだかんだ言いつつもカセットテープに録音したこのベストアルバム。
以来、愛聴することとなる。
出来るだけ曲を飛ばさず通しで聴くように心がけてはいたが、だんだん「Donna」とか飛ばすように。

まあ、仕方ない(!)。

で、特に好んで聴いていたのは「I’m Not In Love」はもちろん、「The Wall Street Shuffle」、「I’m Mandy,Fly Me」、「The Things We Do For Love 」など、後半に収められている曲に集中。

なんでも、「10cc あるある」として「I’m Not In Love 」で10cc を好きになった者はケヴィン・ゴドレイ、ロル・クレーム組の曲に拒絶反応起こしがち、というのがあるようで(私などまんまとそのパターン)。

実験精神旺盛、毒気担当、ゴドレイ・クレーム組。
どこまでも美しい旋律を紡ぎ出す正統派メロディーメイカー、エリック・スチュワート、グレアム・グールドマン組。
ファンの好みはどちらかに分かれがち、というのも。

そして当時の私はなかなか見事にわかりやすく、スチュワート&グールドマン派だったのである。

*1:こちらに収録されているのはまさかのショートカット・バージョンで、コケそうになった

*2:私の思い込みによる間違い。歌っているのはグレアム・グールドマン

*3:当時、カリブ系の曲調のことをスパニッシュというんだと勘違いしていた

私と10cc (3) 「Art For Arts Sake」

「Art For Arts Sake」

*1この原題を知ったのは後のことで、(もはや愛読しているといっていい)新聞の週間FM番組表には「芸術こそ我が命」とあった。
邦題というやつだ。

こういうのってちょっと困ってしまう。
聴いたことのない曲の場合、タイトルを頼りにすることが多い。
歌詞の中にタイトルを探す──まあ、それを言ってくれていない場合もあるが──
何にしろ、手がかりのひとつではある。
ところがこれが邦題だと、それが出来ない。
う〜ん。でも聴きたいし。声でわかるかな......

なんか微妙にめんどくさい。
そんなネガティブな気持ち半分。
とにかく、流れる曲全てに耳を集中させれば。
なんなら保険として、全曲録音という手もある。
あとでじっくり判別すればいいではないか。


チェックする番組は、70年代洋楽をほぼノンストップで流すスタイル。
前半、CM、後半、そして最後にアーティストと曲名紹介、という構成だったと思う。

さて、全曲録音のつもりでスタートはしたものの......
違う曲及び絶対違うだろうと早い段階で確信出来た曲ではつい、流れている間に録音を停止してしまった。
そしてカセットテープを先頭なり前の曲終わりなりに巻き戻して次の曲に備える、というのをやってしまった。
だって、テープもったいないし!(正当化)。

まあ、そうやってガチャガチャやりながらも今何曲目というのはちゃんと把握しているつもり。

しかし、なんだろう。
どの曲もピンとこない。

紹介を聞いてタイトル、録った曲を照らし合わせた上でもなお、なんかモヤモヤする。

この曲、ほんとに10cc ......?



10cc - Art For Arts Sake


私の知っている(って2曲だけな)10cc ってかんじじゃない。
何曲か録音した中で、他の1曲にまだ10cc っぽいのがあったりしてもしかしてこっち!?などと疑念まで抱く始末。

(消したり残したり、ややこしいことしたしなあ。紹介部分も録音しとけばよかった......)

大体わかるでしょ、と甘く考えていた自分が確かにいた。
そんな私に「残念でした〜!」と舌を出す10cc 、みたいな。


では、なぜいろいろ「?」だったのか。

まず曲調。
妖かし系な導入部からのヘンテコなギターリフ。
なにやらうさんくさい乾いた雰囲気。
「え!?」と思った。
多かれ少なかれ様々な曲調があって当然だと分かっているつもりでも、わかりたくないというか。

それとボーカル。
無機質で冷たいかんじ。

歌い方を変えてるのかな?
もしかして違う人?
他にも違う声が入ってるし、違うバンド?──

考えれば考えるほど10cc ではないように思えてくる。
だいたい、メンバー全員がリードボーカルを取り、コーラスも多彩(おまけにマルチプレイヤー)とか知らなかったし、想像もしなかったから(逆ギレ)。

そんなかんじで、でも最終的に曲中で「Art」と言ってるっぽいこの曲が「芸術こそ我が命」であろうと一応納得することにしたのだった。


しかし、この曲をずっとよくわからないとかピンとこないとか(要するに気に入らない)、そんな状態のまま置いておくのは悔しい。
私はとにかく、この曲を聴いた。
そうして日々、根気よく聴き込むうち、だんだん好きになってきた。
噛めば噛むほど味が出る、スルメ的味わいをこの曲に感じ始めたのだ。
特にファンキーテイストなギターソロでフェイドアウトしていくアウトロはまさに痛快。


もし仮に10cc でなかったとしても(!)、そういうの関係なくこの曲自体を好きになれて妙にホッとした。
なにかひとつ課題をクリア出来たような、そんな気がしたからかもしれない。

*1:いつの話なのか全然わからない記事になってしまったがこの回想は私が高校生の時のこと

私と10cc (2) 「Taxi Taxi」

自分の知らない、特に70年代から80年代前半頃の洋楽に興味津々だった高校時代の私。
毎週、宝探しでもするように新聞のFM週間番組表をチェックしていたわけだが、そんなときに見つけたのが

“タクシー・タクシー(10cc)”

(おっ、10cc の知らない曲!なんかこのタイトルも、ちょっとおしゃれっぽい)


番組名は「クロスオーバー・イレブン」。
落ち着いた大人のムード漂うこの番組でかかるということ、それだけでなにかもう、間違いないと思わせた。

当然、エアチェック
ラジカセにカセットテープをセットし、いつものように録音ボタンと一時停止ボタンを操るのだった(大げさ)。



10cc - Taxi! Taxi!


洗練、知的。
そんなイメージが浮かんでくる。
あと、「I’m Not In Love」でのボーカルしか知らなかったからか、声を張って歌っていることに軽い衝撃を受けた。

それと最初は、丁寧に繰り返されるイントロに若干の忍耐を感じたり、優しく迫り来るような詰め気味の歌にもひるんだりして。
これは馴染むのにちょっと時間がかかるかな?と薄く不安がよぎったものの、まもなくそんな思いは消えていった。
聴けば聴くほどしっくりくる。これは、クセになるパターン!


甘い声は時に切なく艶を帯び、やっぱり発音が心地良い(歌詞が知りたくなる)。
楽しいことが待っているときめき感が全体を支配するも、あくまで慎ましい雰囲気なのがいい。
そしてどこか物悲しいアウトロ。
ここはもう特に好きで、集中して曲を堪能するために目を瞑る。

ギターの音のきらめき、エレピの入り方。
さりげなく自由なドラム。

このかんじ、いいな〜。ずっと続いてほしいぐらい。うっとり……

で、このまま素直にフェイドアウトと思いきや、どっこい、そうは問屋が卸さないのだ!
入れ替わるようにジャングル風の音がフェイドインしてくる。

「ん?」

せっかくの夢うつつ気分がここで覚めてしまう。
余韻にも浸れない戸惑いの中、居てほしい人は去って行き、呼んでない人が来たとでもいうか。

とにかく、私にはこのジャングル音がどうにも取ってつけたように感じられていやだった。
とはいえ、一番10cc っぽさを感じたのもこの部分。
「I’m Not In Love」の、優しい曲調でも歌詞はひねくれというような、それと似たものを感じたからかも。


さて、ではなぜこのような不満ありの感想になったのか。

それは、この曲が収録されたアルバム「Windows In The Jungle」(1983年)を聴いていないから。
アルバム自体は都会のジャングル、大都会の一日といったテーマに基づかれている。
その中で1曲目「24 Hours」とこの曲(曲順はラスト)はリンクしていて(アルバム全体を通すとループしているように感じる)、聴いて初めてそういうことかと納得した始末......。

しかし、そんな曲をハイ、と1曲だけ取り出された状態でしか知らないと、こういう感想にもなるよ?
と、苦しい言い訳などしつつ、ともかくこの曲がお気に入りということに違いはなかった。
そしてこんな垢抜けた曲を聴くようになり、自分のレベルまでも上がったような気がして嬉しがっていたり。


当時、自分の好きな曲を共有(という名の押し付け)ということであれこれカセットテープに詰め込んでは友達に渡したり、という作業に勤しんでいたものだが、その中には「I'm Not In Love」や、もちろんこの曲「Taxi Taxi」もしっかり、入っていたのである。




*おまけ*



10cc - 24 Hours

私と10cc (1) 「I'm Not In Love」

今、一番好きで聴いている10ccのことから書いていきたいと思う。

この曲との出会いは中学か高校の頃。
茶の間に持ち込んだラジカセでなんとなくラジオを聴いていたとき、たまたま流れてきた。
その地点で、なにか前から知っているような気がして。

(すごくいい曲!)

途中から慌ててカセットテープをセットし、録音ボタンを押した──。



6. 10CC - I'm Not in Love


幻想的で美しい不思議な音楽。
発音までもが心地良い、優しい声。

それなのに、その「僕は恋をしている」ような歌声で、歌っている内容はタイトルからして「僕は恋をしていない」。

う〜ん。

なんかいやだった。
それはないだろう、と。

認めたくない、すごいギャップ。
癒しの笑顔で「大っ嫌い」と言われるようなかんじ?

でもしかし、断片的に聴き取れるほんの少しの意味から、

(まあ、本心では好きなんだろうな、このひねくれ者は)

という解釈で、ふわっと自分を納得させたのであった。


ちなみに。

作詞はこの曲のボーカル、エリック・スチュワート。
彼の奥様の“ある不満”がこの歌詞のアイデアの元となっているらしい。


奥様「エリック、どうしてもっと“愛してる”って言ってくれないの?」

エリック「しょっちゅう言っていたらその言葉に意味が失くなってしまう(軽いものになってしまう)だろ?」

......みたいな。

結局、エリックは自らの信念を貫く。
そして頑ななまでに「愛してる」という言葉なしで、奥様への愛を表現した詞を書き上げる──。


それにしても奥様、実に女性らしい不満でかわいい。
片やエリック、昭和の男!
あと、なんか小難しいな(そこがまた趣き深くもあるが)。


さて、そんなこんなの「 I’m Not In Love」。
エアチェック(ラジオから録音)したこの曲を聴きながら、まるで違う次元にでも上昇したかのようなキラキラとした浮遊感を味わいつつ、やはり悔いが残るのは通しでの録音が出来なかったこと。

「いつか必ず完全録音を成し遂げる──」

ま、そんな誓いを立てたかどうかは別として、以来、こまめに新聞のFM週間番組表をチェックするようになっていた。

そして、ついに時は来た。
70年代AOR特集が組まれたラジオ番組のリストにて、

アイム・ノット・イン・ラブ(10cc)

の文字を見つけたのだ。


絶対にしくじってはならない。

自分にプレッシャーをかけつつ、いつ曲がかかってもいいように臨戦態勢(録音ボタンを押し、テープの動き出しを確認してすぐ、一時停止ボタンを押しておく。
ここか?というタイミングで一時停止を解除。
違ったらまた一時停止、または仕切り直す)を取り続けながらのリスニングは妙に疲れたが、おかげで無事、まるまる1曲をカセットテープに収めることが出来たのである。

以降、とにかくよく聴いた。
どんな人が歌っているのかな?と、ちょっと思ったりしながら。



そんなある日、朗報が。

SONY MUSIC TV」という洋楽番組にて、10ccの「I’m Not In Love」のビデオが流れるというのだ。
この情報を電話でのオンエアプログラム自動音声案内で掴んだとき、私は心の中で小躍りした。


わくわくの当日、録画しつつ視聴。
「MUSIKLADEN」という音楽番組でのライブパフォーマンスらしい。

 



ノーマルな演奏風景はほんの少しで、あとは背景になにやら宇宙な映像処理が施されている。
曲の雰囲気に合わせてのことなのだろうか。
それだけならまだしも、あろうことかメンバーをもいろいろ施しの対象に。

中心で歌うボーカルの人はまあいいとして、その背後に顔だけ浮かび上がるように配置された他の3名がほのかに怖い。
よく言えば子孫を見守る先祖たち、悪く言えば、背後霊!?

ともかく、初めて彼らの姿を拝むことになる私からすればただ一言、

「普通でいいのに」


そんな得手勝手な不満もありながら、10ccの人たち*1への感想はというと......


“ボーカル、キーボードの人”
エリック・スチュワート(vo、gt、key)・・・キーボードを弾きながら歌っていたのかー。それにしてもすごく淡々としていてクールなかんじ。ちょっと気難しそう。

──明確に想像していた人物像こそなかったものの、あまりにも地味でいささか拍子抜けしてしまった。ライトの加減でエリックの顔の、向かって左側が影になりがちなのもあり、それがクールなイメージに拍車をかけたような。

“ピアノの人”
ロル・クレーム(vo、gt、key)・・・なんか目立つ顔。

──私からすると、この中で最も我の強い顔の人がロル。あとになって、ああ、この人がゴドレイ&クレーム「Cry」のプロモーションビデオ(PV)に出てたゴドレイかクレームのどっちかの人か〜(長っ)、と思ったことを覚えている。

“ギターの人”
グレアム・グールドマン(ba、gt、vo)・・・せっかくギターを弾いてるのにキーボードの人たちに押されてかわいそう。

──なぜか、けなげに感じた。ベースの音がしているところも、ギターで当て振りしていたり......。

“キーボードの人”
ケヴィン・ゴドレイ(vo、drs)・・・ヒゲの人。

──ゴドレイ&クレームのどちらかの人、ということさえも思い浮かばず(興味ないの出すぎ)。


.....ということで、身もフタもない感想と言われればそれまでだが、貴重な映像に感激したのもまた事実。
そして、録画したこのビデオを毎日ぐらい視聴するうち、私はあることに気付く。

(ボーカルの人、色っぽいな)

そうして、この人(エリック)は私のお気に入りの人たちの中にふわりと降りてきた。
他の映像とか写真とかも見れたらいいなーと、ほんのり願う高2の冬から春にかけてのこと(多分)であった。

*1:この当時はメンバーの名前及び本来の担当楽器は知らなかった