1993年、イナフ・ズナフの3rdアルバム「Animals With Human Intelligence」が発表される(日本盤の発売日は4月21日)。
1stシングル「Right By Your Side」。
2ndアルバム「Strength」に満足出来なかった私は、心の奥底で細く長く次に期待をしていた。
だがこのミュージックビデオ(以下MV)を見たとき、ますます地味になったビジュアル、落ち着いた曲調に、またこんなかんじか〜、と小さく静かに落胆した。
でも、仕方ないのかな……という思いも。
当時はグランジなどオルタナ系がメインの音楽シーン、私が好きだったかつてのハードロック、ハードポップ系などというのはもう流行りではなかったから。
ということで少しだけこのMVについて。
映像はアンティークな赤茶色の風合い。
その効果もあり、ドニー・ヴィー(vo.gt.kb)の髪色は赤く輝き、それが美しい。
デレク・フリーゴ(gt)は父、ジョニー・フリゴと。
親子なのに表記ゆれ……ま、まあ、いっか。
ちなみにジョニーはバイオリンで前作に参加している。
存在感あるチップ・ズナフ(ba)もシック&サングラスをかけていなかったりするのが新鮮。
そしてドラムを叩いているのはリッキー・ペアレントで、ヴィック・フォックスの姿はない。
ヴィックは3rdアルバムのレコーディング後、イナフ・ズナフを脱退し、ヴィンス・ニール バンドに加入。
そのことを洋楽専門誌で知ったときにほとんど驚きはなく、妙に納得したかんじ。
私の中のヴィックのイメージは、その雰囲気やプレイスタイル的にもっと派手で危険な香り系のバンドに居てそうな人、というもの。
だから、なにか本来の場所へ収まっただけのごく自然なことのように思えたのだ。
その反面、ややこしくて勝手な感情だが、そのイメージが現実になってしまったこと自体は寂しかった──ヴィックのファンでもなかったくせに。
と、そんな時代にドニーとチップがアルバムのプロモーションのため初来日。
↑の動画、私は見たことがないTV番組。
調べてみると、テレビ神奈川(TVK)にて放送されていたミュージックトマト(その中の水曜番組Music Tomato ROCK SHOW)という音楽情報番組だそう。
「Right By Your Side」のアコースティックバージョン。チープ・トリックの「Oh Claire」をイントロに持ってくるところやサビの最後を日本語で歌ったり、心憎いステキな構成。
ドニーの歌、温かい。
歌いながら観客の誰かに目を合わせて微笑むという、ごくさりげない場面が印象的。
そんなかんじで歌う人の代表って私の中ではジャーニー在籍時のスティーヴ・ペリーなんだが、なんとなくその雰囲気を感じた。
そしてチップ、「値引品」と書かれた紙を貼り付けたベースを抱えるお茶目さん。
でもこの演奏、ドニーの弾き語りがメインみたいになって、チップの音が聴こえてこなくてもったいない。
彼らはまた、洋楽MV番組「SONY MUSIC TV」(以下MUSIC TV)*1にも出演。
この動画を見ているうち、当時まさにこの時の特集を録画したことを思い出した。
もっとも、すでにその録画テープもなく、移行したDVDも劣化してしまって見ることが出来なかったこともあるが、内容の方はほとんど覚えておらず、こうして再び視聴できるということがいつもながら本当にありがたい。
さて、エレピ(エレクトリックピアノ)&ベースでの「Innocence」(2ndシングル)。
私の知っている浅く狭いジョン・レノン像がそこに重なるような曲。
そのせいか、エレピを弾くドニーがジョン・レノンと重なる──でも若いからジョンの息子、ジュリアン・レノンっぽくも見えてくる。
視聴中、彼の歌のルーツも垣間見たような気になりつつ、とてもいい声、とてもいい表情だと思った。
とにもかくにもエレピの浮遊感ある音色、感傷的なメロディーに惹き込まれる。
で、チップ。
「値引品」の紙は貼ったままのベース、そしてこちらも音が(コーラスも)すごく控えめ。
とはいえ要所のフレーズは聴こえてくるし、メリハリかな?
曲を終えたドニー、最後にパラッと弾くとカメラ目線になり、エレピの上に置かれたグラスの中から紙幣をひょいっと抜き取ってポケットに入れ込む……というプチ演出が入ってるかんじに、なぜか懐かしの「演歌の花道」がダブる私である。
↓はMUSIC TVバージョンの「Right By Your Side」。
こちらはチップのベース、ほどよく聴こえていいかんじ。
硬くこもったパッシブな音質がクラシカルな味わい。
ファルセットでのコーラスも優しい響き。
そしてドニー、ここでもミュージックトマトでのバージョンで歌う。
「日本語を入れる」はお約束なのかもしれないけど、どうあれこういうサービスは嬉しいもの。
演奏直後、二人が顔を見合わせているのもほんわか、いい余韻。
時代的にはMTVアンプラグドの影響というか流行りがまだ続いていて、いろんなジャンルのアーティストやバンドが通常のライブとは別にこういった形式の演奏をしていたような記憶。
プロモーション来日の場合、演奏とかしないイメージがあったが、そんなような時代背景もあってチップ&ドニーのスタジオライブがセッティングされたのかな〜なんて、関係があるような、ないような。
ちなみに放送日&収録日は……
Music Tomato ROCK SHOW→1993年3月3日(公開生放送)
MUSIC TV→1993年3月4日(4月中にはオンエア予定)
以上、BURRN!1993年5月号参照。
この当時のドニーは赤毛な髪色のすごくきれいなお兄さん、という印象が強い。
そのせいか、ドニーといえば今までずっとこの頃のビジュアルが真っ先に思い浮かんできていたほど。
そんなかんじで、この来日時のMUSIC TVや洋楽専門誌でのドニーがかっこいいという軽薄な理由を呼び水とし、もう一度期待を持って3rdアルバムの購入を考えた。
しかし、最終的に見送ってしまう。
アルバムのタイトルがなんとなく、私の思うイナフ・ズナフらしくないと勝手に感じていたのもある。
そしてアルバムジャケット*2、ヴィックがいなくなったのだから仕方ないのだが、3人だけが写っているというそのこと自体が、なんか妙にイヤだった(ちなみに、このアルバムの広告に使われていた写真はリッキーを入れた4人でのもの)。
まあ、いろいろ時間がなかったのだろうとか、本作で叩いているのはヴィックなんだし、とか……でもそれよりも何よりも、とにかく「なんかイヤ」だったのだ。
「1stも2ndも購入してきて、今回もなんだかんだで3rdをそばに置きたい。それなのに……」
若さゆえの謎のこだわりだったのか、どうしてもこのジャケットが引っかかってしまい、それ以上、先に進むことが出来なかった。
そんな感情を最後にイナフ・ズナフから遠ざかっていき、私の中で完全に過去のバンドとなっていた2004年、デレクの訃報をネット上で知る。
信じられずショックだったが、いつしかそのことも遠い記憶となって薄れていき……。
そしてまた今になって、手前で引き返して知ることをしなかった3rdアルバムをYouTubeアートトラックやサブスクにて聴いている。
各曲のひとくち感想は以下↓
*シャープでソリッド、都会的な雰囲気。ドニーの歌の巧さに思わず聴き入る「Superstitious」
*どんよりと湿った空気の中、重い足を引きずって歩くみたいな「Black Rain」
*当時の感想はおとなしめであんまり……だったが、今ではキャンドルに火を灯すような温かさを感じる「Right By Your Side」
*少し不安げなイントロも束の間、Bメロからサビにかけての反則ばりのときめき仕様、伸びやかなボーカルが冴え渡る「These Daze」
*この時代(1993年当時)の曲調というかんじ。だからかどうかドニーの歌い方、たまにぎこちない気がする「Master Of Pain」
*愛らしく素直、でも寒々として寂しい。そんな相反する歌い方がキラキラと光っている、そしてギターがすごくいい「Innocence」
*優しく元気づけてくれるような青春系メロディー、ドニーのファルセットからの柔らかいサビにじんわり癒される「One Step Closer To You」
*大好きな土埃系!自由で広大な空気感、音はハードでありつつブルース、カントリーロック、そのあたりの複合がたまらない魅力の「Bring It On Home」
*イントロから絶対的な安心感と幸福感、確信犯のシタールにサイケで極彩色な模様が浮遊するところからさらに解放された魂が宇宙を旅する「Takin’ A Ride」
*ガンズ・アンド・ローゼズ系の猥雑感もあるリフ、そういうのってなんか意外。Bメロパートでホッとする「The Love Train」
*小説のタイトルのようで、曲の展開もドラマティックな「Mary Anne Lost Her Baby」
*80年代半ばあたりのLAメタルを彷彿とさせる曲(というかギター!)、でもなんでこの時代(1993年当時)に?そんな「Rock N World」
*日本盤と米国再発盤に収録のボーナストラック。夢のように美しい、が、それはいつまでも満たされずどこか虚しいようでもある「Fingertips」
──ということで、若干ちぐはぐとした印象はあるものの、主軸としては温かくて癒し効果抜群のハードポップという感想。
いちばん好きな曲は「Takin’ A Ride」。
私にとってのズナフ節にどっぷり浸かる至福。
それと同じくらい大好きな「Bring It On Home」、ドニーのオフィシャルYouTubeチャンネルでアコースティックバージョンも視聴したのだが、こちらはオリジナルでも感じていたブラインド・フェイス「Can't Find My Way Home」風味がさらにあり、そのせいかドニーのファルセットがスティーヴ・ウィンウッドっぽく聴こえてきたりして、より染み入るように。
「These Daze」、「One Step Closer To You」も唯一無二のポップセンス炸裂でとても心地よい曲。
その中で「Takin’ A Ride」、「One Step Closer To You」でのデレクのギターが、70年代後期〜80年代くらいのニール・ショーン(ジャーニーのギタリスト)の雰囲気を感じさせて私は非常に好きである。
私のイメージでのデレクというと、音数の多い弾きまくり系で、私はそのテクニカルで華麗でいながらもエモーショナルで大いに泣くギターが大好きだったからもちろん堪能派ではあるのだが、上記2曲に関しては曲調に合わせての押し引き具合、音数だけではない空間に響かせるスペイシーな聴き味がスーッと清涼剤の如く、本当に耳に気持ちいい。
そして他の曲においてもシュッとした垢抜け感──いや、デレクだな〜的なハードロックギターも聴けるし、それはそれでこのアルバムではもはや滋味深いのであるが。
長い間、私にとってのイナフ・ズナフは1stアルバムだけで、中でも特に、大好きな「Finger On The Trigger」や彼らを知った曲であり、イントロからすぐ懐かしい当時の気分が脳内になだれ込む癒しの「New Thing」で完結していた。
今回、改めて聴いた2nd、初めて聴いた3rd。
この2枚を聴かないと私の思い出の中のイナフ・ズナフは完了しない気がした。
結果、そこにはたくさんの好きな曲があったということが嬉しかった。
調子に乗って、他の未聴アルバムもちょっと聴いてみようかなという気にもなっている。
で、彼らのメジャーデビュー前のデモ音源が収録されたコンピレーションアルバム「1985」(1994年)をなにげなく聴いてみた。
すごくいいな!と思った「The Tears of a Clown」、調べたらスモーキー・ロビンソンのカバーだったりとかしながらも、あとメンバーも違う(ギターとドラム)けど、イナフ・ズナフはイナフ・ズナフだな〜と。
ほんわかとポップで、甘酸っぱくて圧倒的にメロディアス、60年代オールディーズ風や70年代感があって、でもやはり1985年録音の楽曲ということでその時代の空気感というものも感じられるのがいい。
……と、なんだか止まらなくなってしまうのでこの辺で。
現在のイナフ・ズナフはチップが継続させていて、ドニーはソロでの活動。
ヴィックはどうしているのだろう?
昨年、イナフ・ズナフはイリノイロックの殿堂入りを果たし、そのステージでチップとドニーはいたけど(動画をYouTubeにて発見)、そこにヴィックはいなかった。
ネットで数年前の画像など見ると安定のチャラい系(コラ)で、なんか安心したけど(おい)。
「Rockabye Dreamland」、この1曲から私の思い出の中の世界が変わった。
しかしながら、ポップだがハードロックで、ラブ&ピース感やサイケで退廃的な妖しさが魅力のデビュー時のイナフ・ズナフの曲、歌が好きというのは根本にあるのでそれは変わらないだろう。
その上でその後のイナフ・ズナフ、そして今回の記事を書いているうちに遅ればせながらの新しい発見というか、声そのものがラブ&ピースなのだとつくづく感じたドニーの世界をチラチラ覗いてみようかと。
最後に、私はイナフ・ズナフが「かなり好き」ではなく、どうやら「すごく好き」みたいである。
*おまけ