この2曲を聴くと中学に入る直前のことがふわっと出てくる。
中学生になるということで心機一転、文房具類も一新しようと小学校を卒業してからの休みの間、文房具店などいそいそと物色行脚。
そのうちの一軒である、こじんまりとしたファンシーショップ。
旺盛な物欲をそそるたくさんのかわいいものが所狭しと並べられた店内は、照明の加減だったと思うがおぼろげな暖かい色合い。
そこで流れていたのは洋楽。
ただでさえ居心地がいいのにずっと聴いていたいような音楽までかかっているなんて最高である。
で、特に覚えているのがユーリズミックス「Sweet Dreams」だったのだ。
当時の「今」の音というかんじは、聴いているだけで時流に乗っている気にさせてくれた。
ミュージックビデオ(以下MV)でこの曲を知ったのだが、そのインパクトもあってすぐに記憶に残った。
無機質でいてやや憂鬱な曲調に乗る歌はお経っぽく、輪廻転生の響きあり(!?)。
合間に入るスキャットやCメロ的なところには生々しさが。
ちょっとだけ怖いような、壊れた何かを感じる。
映像の方はというと、ボーカルのアニー・レノックスはさながら男装の麗人といった装いでどこか勝ち誇ったような表情、演劇風の雰囲気。
もうひとりのメンバー、ポーカーフェイスを貫くデイヴ・スチュワートとは風変わりなコンビというかんじで独特。
いろいろと変わる場面、妙な取り合わせ。
会議室、牧場、パソコン(かな?)、牛、スーツ姿で額にビンディー、瞑想……
とにかくシュールな世界観である。
一方の曲、「Here Comes The Rain Again 」。
これは中学の入学式前日のこと。
私は熱を出した。頭がぼーっとする。
まあ、とにかく寝ていよう。寝れば良くなるだろう。
ということでその日はずっと寝ていたが、夕方の洋楽情報番組を見たいという気持ちは安定してギラついていた。
まだしんどいが執念で起き出し、茶の間にへたり込む。
そのときのオンエアがユーリズミックス。
特集で全編ユーリズミックスのMVだったと思う(15分番組だったが)。
「Here Comes The Rain Again 」が印象深かった。
あえて感情を低く抑えているかのような歌い方は後半、少しだけ冷静さが保てなくなっている(!)。
映像の中の荒涼とした風景からは寒さと寂しさが感じられ、だからこそキャンドルとランタンの灯りで束の間でも安らぐイメージ。
シリアス調ではあるものの、淡々とカメラを回すデイヴの存在などないみたいに自分の世界を繰り広げるアニー、という見方をしてみるとなかなか痛快。
番組を見終えてまた寝床に戻り、体温を測った。
少し熱が上がっている。私は急に不安になってきた。
(もし、このままずっと熱が上がり続けたら……)
私の人生は12年で終わってしまうのか。
中学生になることなく。新調した文房具を使うこともなく。
最後の曲はユーリズミックスということになるのだろうか。
ああ、もっと洋楽を聴きたかった──。
翌朝。
熱は下がり、私は普通に目を覚ました。
悲劇的妄想に関してはこっぱずかしい限りだが、なにか不思議な感覚の思い出ではある。
MVを見ている間、父がそばにいたとずっと記憶していたが考えてみたらまだ帰宅しているような時間帯ではない。
熱でフラフラしていたから父がいたと思い込んでいたのかもしれない。
いや、記憶違い?でも確かに誰かいた(もう誰でもいいよ)。
初めて(勝手に)死を恐れた日はおぼろげで柔らかな暖かい灯りの色と、ユーリズミックスがセットになっている。